Interview
“見えない光”で未来を照らせ
X線が導く、宇宙と医療の最先端
東京理科大学 創域理工学部 先端物理学科 教授
幸村 孝由 先生
宇宙には“とんでもない環境”がある
宇宙には、1/1000 ミリ以下という超ミクロの塵から、地球のような惑星、太陽のような恒星、さらには星の集まりである銀河、そして銀河が集まった巨大な銀河団まで、想像を超えるスケールの天体たちが存在しています。こうした多種多様な天体の多くは、私たちの目に見える「可視光線」だけでなく、「X線」という“見えない光”も放っています。では、どうして天体はX線を放つのでしょうか。1つは、温度が数百万度を超えるような極限の環境にあるとき、電子が陽イオンに引き寄せられ、エネルギーの一部をX線として放出します。もう1つは、電子が光に近いほどの超高速で動きながら、宇宙にある磁場の中を移動するとき。電子の進む方向は磁場によって曲げられ、電子はエネルギーの一部を失い、それがX線として放たれるのです。つまり、天体が X 線を放っているということは、「とんでもなく熱い環境がある」あるいは「とんでもない速さで電子が動いている」かのサイン。X 線は、宇宙には“とんでもない環境”があることを教えてくれるのです!
X 線宇宙望遠鏡「XRISM」
小さなセンサーが広げる大きな可能性
ただ、天体が放射するX 線は、地球の大気に吸収されてしまうため、地上からは観測できません。そこで私たちの研究室では、専用の人工衛星(宇宙望遠鏡)を使って、X 線を放つ天体の研究を行っています。観測しているのは、ブラックホールや中性子星といった、超極限的な天体です。研究の中では、ブラックホールの周りでは、なんと数百万度から数十億度という想像を超える高温の環境があることや、ブラックホールが物を吸い込むだけでなく、逆に光の速さに近いスピードで物質を吹き飛ばしていることなど、ドラマチックな姿も明らかになってきました。
さらに、私たちの研究室では、X 線を観測するための「イメージングセンサー」の開発も行っています。2023 年に打ち上げた X 線宇宙望遠鏡「XRISM」には、私たちが開発に携わったセンサーが搭載されています。そして今は、新型のイメージングセンサーも開発中です。これはなんと、これから始まる月面探査で宇宙飛行士が浴びる放射線の量を測る“宇宙の健康管理ツール”として活躍する予定です。さらに、この技術は宇宙だけでなく、地球上の医療の未来にもつながっています。具体的には、「アルファ線核医学治療」という新しいがん治療において、体の中で薬がどう広がっているかを可視化するセンサーとして応用を進めています。宇宙から医療まで——小さなセンサーが広げる大きな可能性に、私たちは日々ワクワクしながら研究を進めています。
「なんで?」の気持ちを原動力に
宇宙の驚きを追い続ける
私が宇宙の研究に興味を持ったのは、中学生のときに読んだ雑誌『ニュートン』がきっかけでした。そこに載っていた星雲の写真が、まるで絵画のように美しく、「なんでこんなに綺麗なんだろう?どうしてこんなものが宇宙にあるんだろう?」と、心の中にふと湧いた“ふしぎ”が、ずっと忘れられなかったのです。また、天体写真を趣味にしていた理科の先生が、「星って面白いよね」「理科って不思議がいっぱいで楽しいよ」と何気なく話してくれたことも、今思えば自分の背中をそっと押してくれたのかもしれません。 あのとき感じた「なんで?」という気持ちが、今も宇宙の研究を続ける原動力になっている気がします。
X 線宇宙望遠鏡「XRISM」で観測するデータは、これまで誰も見たことのないようなビックリするデータばかりです。それらを見るときは本当にワクワクしますし、「コレコレ!このために研究を続けているんだ」と実感します。また、XRISMに搭載したセンサーが打ち上げられた後、最初に観測した「ファーストライト」と呼ばれる天体の画像データが届いたときには、「やってきたかいがあった」と強い達成感がありました。今も、XRISMは毎日のように続々と新しいデータを届けてくれています。
幸村先生からのメッセージ
大学受験で学ぶ内容は、単に試験のためだけのものではありません。大学での学びの土台となり、将来社会に出たときにも必要とされる「知識の基礎」、そして広い意味での「人生の基礎」になるものだと思っています。 すべての科目には、それぞれに意味があり、今後の人生に大きな影響を与える力があります。今の勉強は、未来の自分を支える大切な一歩だと言えるでしょう。大学受験や大学生活が皆さんのゴールではありません。あくまで、社会人としての将来に向けた通過点です。今は、そこを通過することに精一杯かもしれませんが、その頑張りが、必ず皆さんの未来を輝くものにしてくれます。頑張ってください。










